心臓オルガノイド
心臓オルガノイドは、ES細胞やiPS細胞から単一の細胞を誘導するだけでなく、複数の細胞から形成される三次元組織として、心臓組織を部分的に再現したものです。ヒトの心臓が形成される過程をin vitroで観察できるようになったことで、ヒト胎児期の神経新生や疾患特有のシグナル異常といった病態研究が進められています。
心臓オルガノイドの基礎から作製原理、分化誘導プロトコル・使用する試薬をご紹介します。
心臓オルガノイドの基礎

心血管疾患(Cardiovascular Disease:CVD)や先天性心疾患(Congenital Heart Defects:CHD)をはじめとする心血管障害は、世界的における主要な死亡原因であり、年間推定1,790万人の死因となっています。しかし、心血管疾患研究のプロセスで作製されるオルガノイドの開発は、その構造の複雑性のためか、腎臓、脳、腸などの他の臓器に比べて遅れています。
これまで、病態解明や創薬研究に向けて、動物モデルやスフェロイド培養といった様々な心臓モデルが活用されてきました。しかし、これらのモデルの多くは、特定の細胞種のみで構成されているケースが多く、心外膜や心内膜細胞を含む多細胞間の相互作用や、生体内の臓器が持つ構造的な複雑性を完全に再現するには至っていません。
こうした課題を解決するため、個々に分化誘導した心筋細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞などの混合物を用いる「3D心臓組織(人工心臓組織)」が開発されました。 3D心臓組織は、組織の力学的・電気生理学的特性をモデル化することに優れ、各種心疾患の表現型の再現や創薬研究において様々な疾患モデルが報告されています。しかし、あらかじめ分化させた細胞を人工的に成形するアプローチであるため、初期胚における自然な心臓発生過程や、それに伴う内在的な細胞外マトリックス(ECM)の形成を反映させることは困難です。
これに対し、近年注目を集める「心臓オルガノイド」は、心臓の分化過程における幹細胞の自己組織化により形成されるため、自然発生的な層状構造など、実際の心臓に近い構造を持ちます。現在の技術において、3D心臓組織は、ある程度分化が進んだ細胞を使用する一方、心臓オルガノイドの成熟度は、まだ発生過程の初期段階であることが多いです。心臓オルガノイドは発生プロセスをより生体内の変化に近い形で再現できるため、遺伝子の特定の変異や培養条件の変更によって遺伝子奇形をモデル化することが可能です。これにより、従来のモデルでは困難であった心臓発生機序の解明や、発生障害の研究においてより有効なプラットフォームになると考えられています。
心臓オルガノイドと3D心臓組織の違い
| 心臓オルガノイド | 3D心臓組織 | |
|---|---|---|
| 構造 |
|
|
| 作製方法 | 自然発生的な自己組織化して作製 | 足場材や鋳型に依存して分化した細胞を混合して作製 |
| 疾患モデル | 発生過程を模倣するため、胎生期や発生異常モデルに適している | 様々な遺伝性、非遺伝性の疾患モデルが報告されている |
| ばらつき | 組織ごとのばらつきが大きい | 組織ごとのばらつきが少ない |
心臓オルガノイド作製プロトコル
心臓オルガノイドの作製において、各過程で使用する試薬をご紹介します。
プロトコル詳細については、参考文献(X, Tian et al., 2022、HK, Voges et al., 2023)をご参照ください。
プロトコル例1(X, Tian et al., 2022)
| iPSCs | 心臓オルガノイドへの分化 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() |
|||||||||
| 培地 | hPSC Medium |
RPMI | |||||||
| 血清/添加剤 | B27-insulin | B27-insulin | |||||||
| 解離試薬 | Accumax | ||||||||
| 培養用化合物 | Y-27632 | CHIR99021 | Wnt-C59 | CHIR99021 | |||||
| サイトカイン | BMP4/ ActivinA |
||||||||
| 器材 | 96-well plate |
||||||||
※X, Tian et al., 2022のデータを基に改変・作成
プロトコル例2(HK, Voges et al., 2023)
| iPSCs | 心筋細胞および間質細胞への分化 | 細胞解離・ 調製 |
心臓オルガノイド培養 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() |
|||||||||||
| 培地 | hPSC medium |
RPMI | MEMα | MEMα | DMEM-glucose | ||||||
| 血清/添加剤 | B27-insulin/PS/L-Ascorbic Acid/L-Ala-L-Gln | B27/PS/L-Ascorbic Acid/L-Ala-L-Gln | PS/L-Ascorbic Acid/FBS/L-Ala-L-Gln | PS/L-Ascorbic Acid/B27/L-Ala-L-Gln | PS/L-Ascorbic Acid/B27-insulin/L-Ala-L-Gln/Aprotinin/D-glucose/Palmitic Acid | ||||||
| Insulin | |||||||||||
| 解離試薬 | Collagenase I/Trypsin-EDTA | ||||||||||
| 足場材 | EHS gel matrix |
Collagen I/EHS gel matrix/10×DMEM | PDMS | ||||||||
| 培養用化合物 | CHIR99021 | IWP-4 | |||||||||
| サイトカイン | BMP4/ActivinA/FGF2 | PDGF-BB/FGF2 | |||||||||
| 器材 | T25 flask | T25 flask | 96-well plate | ||||||||
※HK,, Voges et al., 2023のデータを基に改変・作成
参考文献
【本サイト掲載情報について】
- 掲載内容は本記事掲載時点の情報です。仕様変更などにより製品内容と実際のイメージが異なる場合があります。
- 掲載されている製品について
- 【試薬】
- 試験・研究の目的のみに使用されるものであり、「医薬品」、「食品」、「家庭用品」などとしては使用できません。
- 試験研究用以外にご使用された場合、いかなる保証も致しかねます。試験研究用以外の用途や原料にご使用希望の場合、弊社営業部門にお問合せください。
- 【医薬品原料】
- 製造専用医薬品及び医薬品添加物などを医薬品等の製造原料として製造業者向けに販売しています。製造専用医薬品(製品名に製造専用の表示があるもの)のご購入には、確認書が必要です。
- 表示している希望納入価格は「本体価格のみ」で消費税等は含まれておりません。
- 表示している希望納入価格は本記事掲載時点の価格です。



