SCALEVIEW
SCALEVIEWシリーズは、Scale法に使用する試薬です。Scale法は、国立研究開発法人理化学研究所の宮脇敦史先生らによって開発された、尿素を主成分とした試薬を用いる透明化技術です。蛍光タンパク質を含む生体標本を透明化するだけでなく、分厚い標本を抗体や蛍光色素で標識する工程にも威力を発揮し、特に脳組織やスフェロイド・オルガノイドの解析ツールとして活躍することが期待されます。
Scaleとは?
概要
従来の透明化技術においては有機溶媒が広く用いられていましたが、発光の過程で水分子を必要とする蛍光タンパク質は著しく褪色します。この問題に対して水溶液ベースの溶液を使用した透明化技術であるScale法(ScaleS法とScaleA2法の総称)が開発されました1-2)。
Scale法では尿素と界面活性剤、ソルビトール(ScaleS法)もしくはグリセリン(ScaleA2法)を組み合わせた溶液を光散乱の抑制に使用することで、蛍光タンパク質を褪色させずに組織を透明化することが可能です。さらに、脱脂に必要な界面活性剤の含有量が少ないため、透明化後も超微細構造を良好に保持することが可能です。
このように透明度と構造保持のバランスに優れたScale法は、初めて組織透明化にトライする方におすすめです。
特長
- 操作が簡単 (溶液に順に浸漬するだけ)
- 2 mm脳組織ブロックを約1日で透明化可能
- 蛍光色素染色(ChemScale)や免疫組織染色(AbScaleもしくはAbScale-G)も可能
透明化が可能なサンプル
マウス脳、ヒト死後脳、骨 (脱灰処理が必要)、オルガノイド/スフェロイド など
SCALEVIEWシリーズの選択
アプリケーション | 蛍光タンパク質 | 蛍光色素 | 標識抗体(免疫染色) | ||
---|---|---|---|---|---|
手法 | ScaleS | ChemScale | AbScale | AbScale-G | |
必要な試薬 | SCALEVIEW-S Trial Kit | ✔ | |||
SCALEVIEW-A2 | ✔ | ✔ | ✔ | ||
SCALEVIEW-S0 | ✔ | ✔ | ✔ | ||
SCALEVIEW-S4 | ✔ | ✔ | ✔ | ||
deScale solution | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | |
AbScale-G Solution Kit | ✔ | ||||
所要日数 | 約1日 | 約4-7日 | 約4-7日 | 約4-7日 | |
備考 | •蛍光タンパク質との共染色も可能 | •蛍光タンパク質との共染色も可能 | •蛍光タンパク質との共染色も可能 •AbScaleでは浸透が困難な抗体や蛍光色素(Cy3など)でも適用可能 |
各試薬の説明
SCALEVIEW-S Trial Kit
6種の溶液(SCALEVIEW-S0、SCALEVIEW-S1、SCALEVIEW-S2、SCALEVIEW-S3、SCALEVIEW-S4、SCALEVIEW-SMt)がセットになったキットです。各溶液に組織を浸漬していくことで、簡単かつ高速に透明化および屈折率調整が可能です。
SCALEVIEW-A2
2011年に報告された透明化手法Scaleに基づく透明化溶液です。光学特性である屈折率(20℃)が、RI=1.377-1.381と低めに設定されており、高価な顕微鏡設備がない場合でも屈折率のマッチングがしやすく、初心者におすすめです。
deScale solution
ScaleS法の洗浄工程で使用する試薬です。
スフェロイドの簡易透明化 (オプション)
SCALEVIEW-S4のみを使用したスフェロイドの簡易透明化プロトコルも報告されています3)。
簡易透明化のプロトコルや実験データはSCALEVIEW-S4の製品詳細ページでご覧いただけます。
その他必要な機器・器材・試薬
機器・器材
- 蛍光顕微鏡
※ 屈折率(SCALEVIEW-A2: RI=1.38, SCALEVIEW-S4: RI=1.47, SCALEVIEW-SMt: RI=1.49)に合った対物レンズをご用意ください。データ取得前にお手持ちの顕微鏡メーカーに確認することを推奨いたします。
- コニカルチューブ (サンプルに合わせて5 mL/15 mL/30 mL/50 mLから選択)
- プラスチックペトリディッシュ (サンプルに合わせて35 mm径/60 mm径/100 mm径から選択)
- シーソーシェーカー
試薬
データ
脳組織
プロトコル
還流固定+後固定 | 透明化 | 観察 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4% PFA/PBS(-) | PBS(-) | SCALEVIEW-S0 | SCALEVIEW-S1 | SCALEVIEW-S2 | SCALEVIEW-S3 | deScale Solution | SCALEVIEW-SMt | SCALEVIEW-SMt |
4°C 3日 |
RT 数回 |
37°C 30分 |
37°C 30分 |
37°C 30分 |
37°C 30分 |
4°C 3時間x2回 |
37°C 1時間 |
RT |
各溶液の使用量 (マウス脳半球1-2 mm厚切片の目安*)
- 【透明化】
- SCALEVIEW-S0/S1/S2/S3: 各5 mL / deScale Solution 5 mL
- 【観察】
- SCALEVIEW-SMt: 5 mL
動物種: マウス (Thy1-YFP-H line, 20W, ♂)
組織: 全脳
顕微鏡: 多光子励起レーザー走査型顕微鏡 (エビデント, FVMPE-RS)
対物レンズ: XLPLN10XSVMP (NA 0.6)
レーザー: 960 nm (YFP)
画像サイズ: 512 x 512, 170 tiles, Z=8,000 μm, Z Step 16 μm
動物種: マウス
組織: 全脳
対物レンズ: XLSLPLN25XSVMP (NA 0.90, WD 8 mm)
動物種: マウス
組織: 海馬
対物レンズ: XLPLN25XSVMP (NA1.0, WD 4 mm)
動物種: マウス (C57BL6/J、生後10.5日)
組織:大脳冠状断切片 (1.2 mm厚)
顕微鏡: 共焦点レーザー走査型顕微鏡 (正立型)
レクチン: Texas Red標識トマトレクチン
詳細なプロトコルはこちら
動物種: マウス (Thy1-YFP-H line, 42W, ♂)
組織: 脳 (冠状面切片, 2 mm厚)
顕微鏡: 共焦点レーザー走査型顕微鏡 (エビデント, FV3000, 倒立型)
対物レンズ: UPLSAPO10x2 (NA 0.40)
レーザー: 488 nm (YFP) / 561 nm (PI)
プロトコル (より詳細なプロトコルはこちら)
還流固定+後固定 | 前処理 | 蛍光色素染色 | 透明化 | 観察 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4% PFA/PBS(-) | PBS(-) | SCALEVIEW-S0 | SCALEVIEW-A2 | 8M 尿素 | SCALEVIEW-A2 | deScale Solution | 蛍光色素* /SCALEVIEW-A2 |
SCALEVIEW-A2 | deScale Solution |
SCALEVIEW-S4 | SCALEVIEW-S4 |
4°C 3日 |
RT 数回 |
37°C 4時間 |
37°C 4時間 |
37°C 12時間 |
37°C 4時間 |
4°C 6時間 |
RT 2時間 |
RT 2時間x1, 1時間x1 |
4°C 3時間 |
37°C 6-8時間 |
RT |
各溶液の使用量 (マウス脳半球1-2 mm厚切片の目安)
- 【前処理】
- SCALEVIEW-S0: 10 mL / SCALEVIEW-A2: 10 mLx2 / deScale Solution: 10 mL
- 【免疫染色】
- 染色溶液: 8 mL /deScale Solution: 10 mL
- 【透明化】
- SCALEVIEW-S4: 10 mL
- 【観察】
- SCALEVIEW-S4: 10 mL
動物種: マウス (アルツハイマー病モデル, 17ヶ月齢)
組織: 脳切片 (2 mm厚)
顕微鏡: 共焦点レーザー走査型顕微鏡 (エビデント, FV1200, 倒立型)
対物レンズ: XLPLN10XSVMP (NA 0.60)
プロトコル (より詳細なプロトコルはこちら)
還流固定+後固定 | 前処理 | 免疫染色 | 透明化 | 観察 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4% PFA/PBS(-) | PBS(-) | SCALEVIEW-S0 | SCALEVIEW-A2 | 8M 尿素 | SCALEVIEW-A2 | deScale Solution | 1% ブロッキング剤* /PBS(-) | 抗体 /AbScale Solution** | AbScale Solution** | 4% PFA /PBS(-) | deScale Solution | SCALEVIEW-S4 | SCALEVIEW-S4 |
4°C 3日 |
RT 数回 |
37°C 4時間 |
37°C 4時間 |
37°C 12時間 |
37°C 4時間 |
4°C 6時間 |
RT 2時間 |
37°C > 1日 |
RT 2時間x1, 1時間x1 |
4°C 6時間 |
4°C 6時間 |
37°C 6-8時間 |
RT |
** AbScale Solution: 0.33 M 尿素、0.1% (wt/vol) Triton X-100を含むPBS(-)溶液 [自家調製]
各溶液の使用量 (マウス脳半球1-2 mm厚切片の目安)
- 【前処理】
- SCALEVIEW-S0: 10 mL / SCALEVIEW-A2: 10 mLx2 / deScale Solution: 10 mL
- 【免疫染色】
- AbScale Solution: 1.5 mL /deScale Solution: 10 mL
- 【透明化】
- SCALEVIEW-S4: 10 mL
- 【観察】
- SCALEVIEW-S4: 10 mL
動物種: マウス (アルツハイマー病モデル, 60ヶ月齢)
組織: 脳切片 (1 mm厚)
国立研究開発法人理化学研究所 脳神経科学研究センター
細胞機能探索技術研究チーム 濱先生
AbScale-Gでは、従来のAbScale法では使用が困難だったCy3などの蛍光色素の浸透性が改善し、様々な蛍光色素や抗体が使用できるようになった。
プロトコル
還流固定+後固定 | 前処理 | 免疫染色 | 透明化 | 観察 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4% PFA/PBS(-) | PBS(-) | SCALEVIEW-S0 | SCALEVIEW-A2 | 8M 尿素 | SCALEVIEW-A2 | deScale Solution | 抗体 /AbScale-G Solution** |
AbScale-O Solution** |
4% PFA /PBS(-) | SCALEVIEW-S4 | SCALEVIEW-S4 |
4°C 3日間 |
RT 数回 |
37°C 6時間 |
37°C 6時間 |
37°C 6時間 |
37°C 3時間 |
RT 6時間 |
37°C 3日 |
RT 5分x3回 |
RT 30分 |
37°C 6時間 |
RT |
** AbScale-O Solution: 0.33 M 尿素、0.1% (wt/vol) Triton X-100を含むPBS(-)溶液 [自家調製]
各溶液の使用量 (マウス脳半球1 mm厚切片の目安)
- 【前処理】
- SCALEVIEW-S0: 6 mL / SCALEVIEW-A2: 6 mLx2 / deScale Solution: 10 mL
- 【免疫染色】
- AbScale-G Solution: 1.5 mL /deScale Solution: 10 mL
- 【透明化】
- SCALEVIEW-S4: 8 mL
- 【観察】
- SCALEVIEW-S4: 8 mL
スフェロイド・オルガノイド
サンプル:アダルトラット海馬の神経幹細胞由来ニューロスフェア
顕微鏡: 共焦点レーザー走査型顕微鏡 (エビデント, FV1000)
対物レンズ: UMPLFLN10XW (NA 0.3)
プロトコル (より詳細なプロトコルはこちら)
還流固定+後固定 | 前処理 | 免疫染色 | 透明化 | 観察 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4% PFA/PBS(-) | PBS(-) | SCALEVIEW-S0 | SCALEVIEW-A2 | 8M 尿素 | SCALEVIEW-A2 | deScale Solution | 1% ブロッキング剤* /PBS(-) | 抗体 /AbScale Solution** | AbScale Solution** | 4% PFA /PBS(-) | deScale Solution | SCALEVIEW-S4 | SCALEVIEW-S4 |
4°C 3日 |
RT 数回 |
37°C 4時間 |
37°C 4時間 |
37°C 12時間 |
37°C 4時間 |
4°C 6時間 |
RT 2時間 |
37°C > 1日 |
RT 2時間x1, 1時間x1 |
4°C 1時間 |
4°C 3時間 |
37°C 4時間 |
RT |
** AbScale Solution: 0.33 M 尿素、0.1% (wt/vol) Triton X-100を含むPBS(-)溶液 [自家調製]
各溶液の使用量 (マウス脳半球1-2 mm厚スライスの目安)
- 【前処理】
- SCALEVIEW-S0: 1.2 mL / SCALEVIEW-A2: 1.2 mL / deScale Solution: 1.2 mL
- 【免疫染色】
- AbScaleのプロトコルに準ずる
- 【透明化】
- SCALEVIEW-S4: 1.2 mL
- 【観察】
- SCALEVIEW-S4: 1.2 mL
サンプル: iCell® Hepatocytes2.0
スフェロイド形成用プレート: Prime Surface® 96ウェルスリットウェルプレート
一次抗体: 抗ABCB11抗体
二次抗体: 抗ウサギIgG(H+L), ヤギ, FITC標識
プロトコル (より詳細なプロトコルはこちら)
SCALEVIEWシリーズ Q&A
手法について
- 透明化中にサンプルは膨張しますか。
- ほとんど変化しません。ただし透明化工程中にわずかに膨張します。最終の透明化工程でほぼオリジナルサイズに戻ります。
- 透明化工程でストップポイントはありますか。
- [AbScale, AbScale-G, ClemScaleの前処理工程]
SCALEVIEW-S0, A2処理において、4℃下であれば12 hrs~3 daysほど置いておくことが可能です。
- 透明化後のサンプルの保管はどうすればよいですか。
- SCALEVIEW-S4溶液中で、パラフィルム等で乾燥を防いで常温、遮光保管してください。
観察について
- 蛍光タンパク質のシグナルはどの程度保持されますか。
- 6か月間ほど保持されます。
- どのような観察容器を使用すればよいですか。
- 組織サンプルより少し大きい径のディッシュや、サンプルの厚みに合わせたSee Through Chamber をご使用ください。
- どのような顕微鏡を使用すればよいですか。
-
共焦点顕微鏡、二光子顕微鏡、などをご使用ください。また、SCALEVIEW-S4 (RI=1.47), SCALEVIEW-SMt (RI=1.49)の屈折率に合った対物レンズをご使用ください。
参考情報としてEvident社製対物レンズ一覧を掲載しています。もしくは、お手持ちの顕微鏡メーカーへお尋ねください。【Tips】対応する顕微鏡が無く、高屈折率条件下で観察することが困難な場合は、SCALEVIEW-A2(RI=1.38)で置換して観察することをご検討ください。詳細はこちらをご覧ください。
参考文献
- Hama, H. et al.: Nat Neurosci., 14, 1481 (2011).
Scale: a chemical approach for fluorescence imaging and reconstruction of transparent mouse brain - Hama, H. et al.: Nat Neurosci., 18, 1518 (2015).
ScaleS: an optical clearing palette for biological imaging - Boutin, M. E. et al.: Sci. Rep., 8(1), 11135 (2018).
A high-throughput imaging and nuclear segmentation analysis protocol for cleared 3D culture models
製品一覧
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- 掲載内容は本記事掲載時点の情報です。仕様変更などにより製品内容と実際のイメージが異なる場合があります。
- 掲載されている製品について
- 【試薬】
- 試験・研究の目的のみに使用されるものであり、「医薬品」、「食品」、「家庭用品」などとしては使用できません。
- 試験研究用以外にご使用された場合、いかなる保証も致しかねます。試験研究用以外の用途や原料にご使用希望の場合、弊社営業部門にお問合せください。
- 【医薬品原料】
- 製造専用医薬品及び医薬品添加物などを医薬品等の製造原料として製造業者向けに販売しています。製造専用医薬品(製品名に製造専用の表示があるもの)のご購入には、確認書が必要です。
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