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【連載】エンドトキシン便り「第6話 ペプチドグリカンについて」

本記事は、和光純薬工業 試薬化成品事業部開発第一本部 BMS 開発部 BMS センター 池田 駿典が執筆したものです。

はじめに

前号では、カイコ体液を原料とした SLP 試薬についてご紹介いたしました。SLP 試薬はリムルス試薬で検出できないペプチドグリカンを簡便に検出することがでいます。そこで今回は、SLP 試薬によって検出される、ペプチドグリカンについてご紹介させていただきます。

微生物の細胞壁成分について

前号でも簡単にご説明しましたが、微生物の細胞壁には、種々の発熱性・炎症性物質が存在しています。代表的な物質として、グラム陰性細菌が持つエンドトキシン(LPS)、グラム陽性細菌のリポタイコ酸、またこれら細菌類に共通して存在するペプチドグリカンや、真菌が持つ β-1,3-D-グルカン等が挙げられます。

グラム陰性細菌の細胞膜の外側には、薄いペプチドグリカン層があり、さらにその外側にエンドトキシンが存在します。それに対し、グラム陽性細菌の細胞膜の外側には分厚いペプチドグリカン層とリポタイコ酸が存在します。

このように、ペプチドグリカンはグラム陰性細菌とグラム陽性細菌に共通して存在する細胞壁成分であり、ペプチドグリカンの医薬品への混入により無菌性腹膜炎が多発した事例も報告されています1)。そこで今回はペプチドグリカンの構造、またその生物活性についてご紹介いたします。

ペプチドグリカンの構造

ペプチドグリカンは、N-アセチルグルコサミンと N-アセチルムラミン酸を含む糖ペプチドからなるポリマーであります。その基本的な構造は、N-アセチルグルコサミンと N-アセチルムラミン酸が交互に連なった繰り返し構造を持つ糖鎖に、ムラミン酸のカルボキシル基に数個のアミノ酸からなるペプチドサブユニットが結合しています。

このサブユニット同士が架橋され、網目状の構造をとることで、化学的に安定な状態で存在しています2)。このサブユニットの構造は、グラム陰性細菌とグラム陽性細菌で少し違いがあります。詳細な解説については参考文献2)をご参照くださればと思いますが、今回は簡単にグラム陰性細菌とグラム陽性細菌のペプチドグリカンの違いについてご説明いたします。

(1)グラム陰性細菌のペプチドグリカン

グラム陰性細菌の細胞壁は、大きく分けて、エンドトキシンからなる外層とペプチドグリカンからなる内層に分かれます。グラム陰性細菌のペプチドグリカンは、ムラミン酸のカルボキシル基に L-アラニン(Ala)、D-グルタミン酸(Glu)、meso-ジアミノピメリン酸(DAP)、D-Ala からなるサブユニットが結合しています。

一つのサブユニットの m-DAP と他のサブユニットの D-Ala が架橋され、網目状の構造を取ります(図 1a)。この特徴から、グラム陰性細菌のペプチドグリカンは DAP 型のペプチドグリカンと呼ばれています。

(2)グラム陽性細菌のペプチドグリカン

グラム陽性細菌の細胞壁の大きな特徴は、分厚いペプチドグリカン層が大半を占めることです。グラム陽性細菌のペプチドグリカンは、ムラミン酸のカルボキシル基に L-Ala、D-イソグルタミン(iGln)、L-リジン(Lys)、D-Ala からなるペプチドサブユニットが結合しています。

一つのサブユニットの L-Lys と他のサブユニットの D-Ala が 5 個の Gly からなるペプチドによって架橋され、網目状の構造を取ります(図 1b)。グラム陽性細菌のペプチドグリカンは、Lys 型のペプチドグリカンと呼ばれています。

図 1. グラム陰性細菌(a)とグラム陽性細菌(b)のペプチドグリカン
図 1. グラム陰性細菌(a)とグラム陽性細菌(b)のペプチドグリカン
(Royet. J., Dziarski. R. (2007) Nature Reviews Microbiology, 5, 264-277 より引用)

ペプチドグリカンの生物特性

ペプチドグリカンは基本的には不溶性であり、酸にもアルカリにも溶けないという特徴があります。また、ペプチドグリカンは熱に対しても安定であることが知られています。

ペプチドグリカンは種々の生物活性を有しており、そのアジュバント活性を担う最小有効構造はムラミン酸、L-Ala、D-iGln からなる低分子化合物で、ムラミルジペプチド(MDP)と呼ばれています。MDP の代表的な生物活性は、in vitro においては、マクロファージ、B 細胞、T 細胞等の血球系細胞の活性化、繊維芽細胞の増殖促進、血小板の破壊や補体の活性化等があります3)

in vivo においては、体液性免疫の増強または抑制、細胞性免疫の増強、細胞内皮系の刺激、一過性の白血球減少とその後の白血球増加、インターフェロン誘導因子の増強、自然抵抗力の強化、実験自己免疫疾患の誘導、発熱作用、エンドトキシン毒性に対する感受性の増加、睡眠の促進または抑制、類上皮肉芽腫形成、遅延型過敏発症部位への出血壊死性炎の惹起、また急性および慢性の毒性等があります3)

これらの種々の生物活性の多くはエンドトキシンが持つ生物活性と共通していますが、重量当たりの活性は弱いようです。しかし、活性が弱いとはいえ、ペプチドグリカン汚染による欧州での無菌性腹膜炎の事例1)にもあるように、ある種の医薬品や医療用具ではペプチドグリカンの管理が重要となる場合もあります。

SLP 試薬によるペプチドグリカンの測定

わたしたちヒトをはじめとした多くの生物は、生体内に微生物が侵入すると様々な生体防御機構が作用します。昆虫の生体防御機構の一つにメラニン形成がありますが、この現象は体液内に侵入した細菌や菌類の細胞壁成分に反応して誘導されます。

弊社がご提供しています SLP 試薬は、カイコ体液のメラニン形成を利用しており、細菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンや真菌が持つ β-1,3-D-グルカンに反応します。一方で、グラム陰性細菌の細胞壁成分であるエンドトキシンにはほとんど反応しない4)ため、リムルス試薬との併用で検体中の微生物の種類を予測可能と考えます。

図 2. トキシノメーター法による SLP 試薬のペプチドグリカンまたはカードランに対する容量反応性
図 2. トキシノメーター法による SLP 試薬のペプチドグリカンまたはカードランに対する容量反応性

まとめ

ペプチドグリカンはほとんどの細菌に共通して存在する細胞壁成分で、大きく分けてグラム陰性細菌が持つ DAP 型とグラム陽性細菌が持つ Lys 型の 2 種類に分類されます。ペプチドグリカンは不溶性、耐熱性を示し、安定な物質であることが知られています。

また、in vitroin vivo において種々の生物活性があり、それらの多くはエンドトキシンが持つ生物活性と共通しています。また、一部の医薬品に対しては製造時におけるペプチドグリカンの管理が重要である事例も報告されています1)

今回は SLP 試薬によって検出することができるペプチドグリカンについて簡単にご説明させていただきました。SLP 試薬によって検出可能なもう一つの微生物細胞壁成分である β-1,3-D-グルカンにつきましては、次の機会にご紹介させていただく予定です。

参考文献

  1. Martis L., et al. (2005) Aseptic peritonitis due to peptidoglycan contamination of pharmacopoeia standard dialysis solution. The Lancet, 365(9459) : 588-594.
  2. K H Schleifer and O Kandler. (1972) Peptidoglycan types of bacterial cell walls and their taxonomic implications. Bacteriol Rev. 36(4) : 407-477.
  3. 小谷尚三, 高田春比古 (1983) 細菌細胞壁ならびに関連する合成標品(ムラミルペプチド)の免疫薬理作用, 薬学雑誌, 103, 1-27.
  4. Tsuchiya, M., Asahi, N., et al. (1996) Detection of peptidoglycan and β-glucan with silkworm larvae plasma test. FEMS Immunol. Med. Microbiol., 15, 129-134.

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