【連載】Talking of LAL「第33話 エンドトキシンの測定条件」
本記事は、和光純薬時報 Vol.66 No.4(1998年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第33話 エンドトキシンの測定条件
エンドトキシン試験を行う上で測定条件の決定は非常に重要です。各国の局方やFDA のガイドラインを見ても、測定のバリデーションとして、測定法の性能確認と対象試料の測定条件の決定を行うよう規定されています。
測定法の性能確認については、使用する試薬に表示された性能を確認するということで、大きな問題が起こることはあまりないと思われます。しかし、試料の測定条件の決定では、エンドトキシンの活性が変化しやすいこともあり、種々の問題が起こります。
試料の測定条件は、基本的にエンドトキシンの添加回収試験で決定します。通常、エンドトキシンを測定試料に添加し、これをリムルス試薬に加えて測定します。この方法でエンドトキシンの試料からの影響による活性変化が考慮されていないことは、第 22 話及び第 23 話でお話ししました。
筆者はこの点がどうも気になるので、今回、エンドトキシンの測定条件の決定方法について具体的に提案してみたいと思います。
まず、試料がリムルス試験に影響を与える場合、影響を受ける対象としてリムルスの反応系とエンドトキシンの少なくとも 2 種類が考えられることを思い出して下さい。試料がエンドトキシンの活性に影響を与える場合、エンドトキシンの添加回収試験は試料のリムルス反応系への影響についてはなにも答えてくれません。
すなわち、現在行われている添加回収試験は、実用的にほとんど問題がないにせよ、何を知ろうとしているかが不明瞭な試験と思われます。筆者は、「エンドトキシン試験は、試料がリムルス反応系に影響を与えない条件で行う」ことが重要と考えています。
実際の条件設定について考えてみましょう。局方等に記載されている反応干渉因子試験を未経験の試料について行うためには、予備試験が必要です。すなわち、予備試験で反応干渉因子試験を行う試料濃度を決定するわけです。
予備試験として、(1)試料の希釈系列を作成し、ある濃度のエンドトキシンを添加する方法、(2)試料に高濃度のエンドトキシンを添加し、これを用いて希釈系列を作成する方法、の 2 通りがあります。いずれの場合も、エンドトキシンを添加しない試料の測定が必要です。
エンドトキシンを添加した試料の測定値からエンドトキシンを添加していない試料の測定値を引いて、添加したエンドトキシン量で割って 100 倍すると、エンドトキシン回収率(%)がでてきます。試料の希釈率の変化とエンドトキシン回収率の変化を比較して、期待する回収率(規定によって許容される回収率の範囲が異なっています)に収まる試料濃度を選び、その濃度で反応干渉因子試験を行って、条件設定がうまくいくかを確認するということになります。
ほとんどの試料は上記の方法で条件設定が可能です。しかし、ロットやエンドトキシン添加後の保存時間によって測定可能な濃度が大きく異なったり、(2)の方法で希釈に伴ってエンドトキシン回収率が 100% に収束しない場合には、試料がエンドトキシンに影響を与えている可能性を疑うべきです。
試料がエンドトキシンに影響を与えているかどうかを確実に調べる方法は、現在のところ見あたりません。しかし、以前にご紹介した「試料とエンドトキシンを別々にリムルス試薬に添加する方法(別添加法)」は、一つの有力な手段です。
例えば、ある試料の 10 倍希釈液を試験したいときには、5 倍希釈試料 0.05 mL をリムルス試薬 0.2 mL に添加し、すぐにエンドトキシン溶液 0.05 mL を添加して測定を行います。エンドトキシン溶液は、試験を行う濃度の 2 倍のものを作成して使用します。
この方法では、通常の方法に比べてエンドトキシンが試料に接する時間が少なく、エンドトキシンの活性が変化しにくいと考えられます。本法の回収率と従来法の回収率に違いがある場合は、試料がエンドトキシン活性に影響している可能性が非常に強いと考えられます。試料がエンドトキシン活性に影響を与える場合は、この別添加法で条件設定を行うべきではないでしょうか。
試料の測定系への影響を評価できるエンドトキシン試験条件の設定について考えてきましたが、どのような状態のエンドトキシンを測定するべきかについての解答が得られているわけではありません。今後、エンドトキシンの潜在的な活性をどのように捉えるか、標準的なエンドトキシンの存在状態をどのように設定するかについて、基本的な概念を確立する必要があると思われます。