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【テクニカルレポート】ライフサイエンス研究の進展にもたらすハイスループットな高画質イメージングの重要性

本記事は、和光純薬時報 Vol.93 No.2(2025年4月号)において、横河電機株式会社 ライフ事業本部 
遠藤 利朗様、居原田 真史様、太田 亜紀様に執筆いただいたものです。

近年、顕微鏡を用いた画像取得および解析技術の急速な進化は、ライフサイエンス研究における生命現象の解明に重要な役割を担っています。特に、サブセルラーレベルでの可視化と詳細な画像解析は、新たな生物学的知見の発見に絶大な威力を発揮しています。ここでは、画像を取得して解析する細胞イメージングの利点と、その発展型であるハイコンテントアナリシス(HCA)やシングルセル解析について解説します。

ライフサイエンス研究におけるイメージングの役割について

イメージングは細胞や組織の構造、機能、相互作用などの可視化や定量化に役立っています。特に、細胞や分子の位置関係をリアルタイム観察で追跡するなど、従来の生化学的手法だけでは捉えきれなかった時空間的な情報も得ることができ、生物学的なメカニズムの解明にも役立っています。これらの情報をより多く詳細に得るために、高画質な画像を高分解能かつハイスループットで取得し、解析する手法への期待が高まっています。

共焦点観察について

共焦点顕微鏡は、焦点位置に配置したピンホールによって焦点外からの光を排除することで、標本を薄くスライスしたかのように撮影します。光軸方向に焦点位置をずらしながら撮影した多くのスライス像から立体的な画像(3D画像)を構築できます。複数の異なる蛍光色素で細胞、細胞小器官などをラベルし、同時に観察することで、細胞や組織の配置や相互作用などの可視化が可能です。
横河電機の共焦点システムは、多数のピンホールを等ピッチ螺旋配置した円板「ピンホールアレイディスク(ニポウディスク)」と、個々のピンホールに励起レーザを集光する「マイクロレンズアレイディスク」の2枚の円板を連動して高速回転させることで、観察領域を約1000本のレーザビームでマルチスキャンします。
マルチビームスキャンは、高速であるだけでなく、1ビームあたり非常に低いレーザ強度で高効率に蛍光色素を励起できるので、従来のシングルビームによるスキャン方式に比べ、顕著に光毒性、蛍光退色を抑えられます。この方式は細胞の生きた状態での挙動をリアルタイムで観察するライブセルイメージングに最適であり、細胞分裂や細胞間の相互作用、薬剤の影響の経時変化、時系列の評価を行うために非常に有用です。この技術を活用した共焦点スキャナユニットCSUは世界で4000台以上が研究者に使用されており、横河電機のコアコンピタンスとしてすべてのイメージング装置に搭載されています。

図1. マイクロレンズアレイ付きニポウディスク⽅式

図1. マイクロレンズアレイ付きニポウディスク⽅式

画像解析について

画像解析技術の進歩により、取得した画像データをより効率的かつ詳細に解析することが可能となりました。特にAIを活用した解析手法は、膨大かつ複雑な画像データから細胞形態の変化、挙動変化、分子間相互作用などを自動で抽出し、高精度に定量化することを可能にしました。とりわけ再生医療の分野では、細胞の状態を判断する手段が熟練者による目視のみということも多かったところを、AI・画像解析の技術により誰でも再現度高く定量できるようになってきています。

ハイコンテントアナリシスについて

ハイコンテントアナリシスとは撮影から解析まで高度に自動化されたシステムを使用することで、多数の細胞から網羅的かつハイスループットにデータを取得、解析する手法です。多条件、多サンプルの実験が容易に出来るだけでなく、自動化することで実験者の主観の介在によるバイアスを排除し、データのばらつきに埋もれてしまう可能性のある微細な変化もとらえたりできます。固定した単層培養の細胞サンプルの他、組織切片や、近年ではスフェロイドやオルガノイドなどの3D評価や、ライブセルの長時間タイムラプスイメージングなどでも、ハイコンテントアナリシスが適用されることが多くなっています。ハイコンテントアナリシスには情報量を多く持つ高解像度画像が有利である一方で、大量の画像を撮影するためには、高速に撮影できる顕微鏡システムが求められます。スピニングディスク方式の共焦点システムは、画質と速度を両立できるため、ハイコンテントアナリシスには適した方式です。

【アプリケーション事例】アポトーシス測定

A

B

C

D

Hela細胞にアポトーシスを誘導しアネキシンVおよびヨウ化プロピジウム(PI)にて染色した。蛍光染色した細胞をハイスループット細胞機能探索システムCellVoyagerCV8000を用いて撮影し、ハイコンテント解析ソフトウェアCellPathfinderを用いてそれぞれの蛍光を発している細胞を検出してカウントした。

(A) 20倍対物レンズで撮影した明視野像 (左) と蛍光染色像 (右)。緑がアネキシンV、赤がPI。(B-D)抗がん剤の一種エトポシドの効果。

(B) (B左) エトポシド無添加サンプルの画像。青色は核染色。
(B右) エトポシド 100 μM を添加したサンプルの画像。

(C) (C) アネキシンVのみ陽性の細胞の割合。

(D) (D) アネキシンVおよびPI両陽性細胞の割合。(C) (D) ともグラフ横軸はエトポシド濃度、青と橙の棒グラフはそれぞれエトポシド添加から3時間後と24時間後の結果を示す。

シングルセル解析について

近年、シングルセル解析技術の発展により、個々の細胞レベルでの遺伝子やタンパク質のプロファイル比較が可能となり、集団ではわからなかった細胞のさまざまな機能や多様性が明らかになってきました。シングルセル解析を行ううえで必要不可欠な作業が細胞の単離であり、フローサイトメーターやマイクロ流路等の技術を応用した単離装置が数多く開発されています。またハイコンテントアナリシスのデータを基に特定の細胞や細胞内の特定の部位のみをサンプリングすることで、従来では捉えきれなかった細胞間の違いや、細胞間相互作用、微細な変化を高精度で解析することが可能になります。

【アプリケーション事例】プロテオーム解析

細胞内サンプリングシステム Single Cellome™ System SS2000を用いて細胞からミトコンドリアを含む領域を採取し、timsTOF Ultra(Bruker社)によるLC/MSによりプロテオーム解析を実施しました。細胞の一部を採取したサンプルから1500IDを超えるタンパク質を検出することができ、サブセルラーレベルでのプロテオミクスが可能であることが示唆されました。生命現象の解明、疾患メカニズム解析、バイオマーカー探索などの研究へ貢献します。

総括

顕微鏡技術の進化は細胞や組織の構造、機能、相互作用を視覚的に把握し、定量化を可能にすることで、ライフサイエンス研究を飛躍的に発展させています。特に、サブセルラーレベルでの詳細な画像解析は、新たな生物学的知見の発見に大きく貢献しています。さらに、高画質な画像を高分解能かつハイスループットで取得し、解析する手法の進化は、研究の効率化と精度向上に繋がると期待されています。これにより、医学生物学の基礎研究や、創薬、再生医療研究などのさらなる発展に貢献しています。

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